電磁波について
電磁波とは?
電磁波とは「電と磁の波」と書きます。電場(E)と磁場(B)の変化を伝搬する波であり、下のアニメーションのようによく表現されます。電場や磁場とは、何でしょうか?
まず、話を電場に絞ってみましょう。
電場は目に見えませんし、触れることもできないため、イメージがしにくいのですが、「場」とは雰囲気のようなものです。電場が存在していることは、例えば、こんな実験でわかります。
ちょうど電場が発生している辺りを、拡大してみましょう。下敷きと髪の毛を擦ることによって、下敷きがマイナスの電気を帯び、髪の毛がプラスの電気を帯びます。
プラスの電気とマイナスの電気の間には、目には見えませんが「電場」が発生しており、「電場」を通してプラスの電気とマイナスの電気がお互いに作用することで「力」が発生している、と電気の世界では考えます。
もう一つの「磁場」も、同じ要領でイメージできます。
もう一つの磁場も同じ要領でイメージできます。
この写真では、赤いN極とN極が向き合っており、二本の磁石が「磁場」を通してお互いに作用することで「力」が発生している、と考えます。
例えば砂鉄は、磁場に反応して整列します。一粒一粒が小さな磁石の状態になっており、磁場に反応しているわけです。
さて、最初の「電磁波のイメージ」に戻ってみましょう。
電磁波とは「電場と磁場の変化を伝搬する波」でした。
二つの異なる種類の「雰囲気」の変化。青い雰囲気の「電場(E)」と、赤い雰囲気の「磁場(B)」が、変化しながら「波」として進んでいくという性質を持っています。
電磁波は、目には見えず、触れることもできませんが、私たちの周囲に確かに存在しており、私たちの生活に数々の恩恵をもたらしてくれています。
同じように「変化しながら進んでいく」波として、「音」があります。音も「音波」「音場」などと表現されますので、対比してイメージしてみると興味深いと思います。
電磁波が変えてきた
これまでの社会
「電場と磁場の変化を伝搬する波」である電磁波。
人間社会では一体、どんな風に役立っているのでしょうか?
上図には、「家電製品や携帯電話から発信する電波も、可視光線や紫外線、赤外線も、エックス線撮影に使われる放射線も、電磁波の仲間です。」と書いてあります。
詳細については、「なぜ、電磁波は色々と便利なの?」をご覧ください。ここでは、「沢山の分野で活用されている」ことを理解したいと思います。
上図の絵を一つ一つ見てみると、電磁波は、農業,衛生,医療,交通,漁業,おもちゃ,通信,生活家電,等々で活用されていることがわかります。仮にもし、これらの電磁波が使えない時代へ逆戻りしたら、私たちはどのくらい不便な生活を強いられるのでしょうか?
例として「通信分野」の歴史を、少しだけ覗いてみましょう。
原始的な通信技術としては、例えば狼煙(のろし)や太鼓がありました。狼煙は、敵軍の発見を友軍に通知するシグナルとして全世界で使用されていたそうです。
離れている人に対し、より詳しい内容を伝達するために、「狼煙の数や色」や「音のリズムや音程」などの変化も活用されていたことでしょう。例えば「赤い狼煙が3本上がったら、1時間以内に全員集合!」というルールをあらかじめ決めておけば便利です。このような通信方法は、紀元前から使われていたようです。
もう少し、高度な情報を伝えるには、どうしたら良いでしょうか?
西暦1800年頃になると「電信」という技術が登場します。例えば、長さ100mの電線を36本用意し、アルファベット26文字(A~Z)+数字10文字(0~9)に対応させます。そして、「ミスターX、1時間後にこちらへ来てください」というメッセージを送りたい場合は、「MR X PLEASE COME HERE 1 HOUR LATER」の各文字に対応した電線へ順番に電気を流します。
この方法を使うと「文字情報」を伝送することができます。しかし、遠くの人へ伝送するには、長い電線がたくさん必要となります。1840年には、一本の電線でも文字情報を伝送できるよう、「トンツー」で知られるモールス符号が発明されました。その後は、大陸間のような長距離でも通信できるよう、海底ケーブルの研究も進みました。
その後、電線を使わないで情報を送る「無線電信」の時代に入り、通信分野で初めて「電磁波」が活用され始めます。
右 の写真の無線通信機は、モールス符号の短点と長点を、インクで紙テープへ記録できたそうです。情報の内容は、商用・外交用・軍事用が多かったようで、「長い距離を速く正確に」というのが、技術改良時の大切な要素でした。
現代の私たちは、スマホを使えば、地球の裏側にいる人と通話(音声通信)でき、写真(画像通信)や映画(映像通信)を観たりできます。これらの高度な情報を瞬時かつ正確に、そして宇宙飛行士とも交信できるほど長距離で交信可能なのは、ひとえに電磁波のおかげと言っても過言ではありません。
さて、最初の図「電磁波の活躍」に戻りましょう。通信分野の他にも、電磁波には沢山の分野で沢山の物語があります。「みんなのために、がんばれ!電磁波!」と思わず叫びたくなりますね。
なぜ、電磁波は色々と
便利なの?
「電磁波が変えてきたこれまでの社会」で見たように、狼煙(のろし)や太鼓から始まった通信技術を、格段に向上させた電磁波。おかげさまで、私たちの生活全体が本当に便利になりました。そして、「5Gとは何?:5Gが生み出す新しい社会」で登場する、最新の5G通信技術のように、電磁波の活用技術はいまだに進化を続けています。通信以外にも、農業,衛生,医療,交通,漁業,おもちゃ,生活家電,等々の様々な分野で活用されています。
電磁波はなぜ、これほどまでに様々な分野で活用でき、いまだに進化を続けることができるほど、懐が深く逞しい存在なのでしょうか?まるで、修行を続ける敏腕忍者のようですね。
電磁波が便利な理由を探るために、「電磁波とは?」の「電磁波のイメージ動画」から一場面を切り出してみましょう。ここに大切な要素が全て入っています。
① 波長と周波数
波の山から山の長さ(距離)を「波長」と言います。この波長の「長い」「短い」の違いで、電磁波の特徴が変わります。例えば、波長が長い電磁波は遠くまで飛びます。
この波長は「周波数」と密接に関係しています。周波数とは、1秒あたりの電磁波(電場や磁場)の振動数です。例えば「電磁波とは?」の「電磁波のイメージ動画」の場合は、30秒間で約10回振動しているため、約0.3Hz(=10回/30秒)です。
この約0.3Hzの周波数の電磁波の波長は、約100万kmと概ね計算できます。とても長い波長ですね。マラソン(42.195km)の世界記録が約2時間ですので、プロのマラソン選手がこのペースで休みなく走り続けて約47,399時間、つまり約2,000日間かかる距離です。地球の一周(赤道の長さ)は約40,075kmですので、100万kmは地球約25周分の長さということになります。
スマホに使われている電磁波は、MHz(メガヘルツ)やGHz(ギガヘルツ)という高い周波数を使っています。メガは100万(=106)、ギガは10億(=109)を表します。例えば3GHz(ギガヘルツ)は「1秒間に30億回振動している電磁波」という意味です。凄く速い振動なので、沢山の情報が送れそうですね。
先程の計算を実行すると、3GHzの電磁波の波長は10cmです。空中を波長10cmの電磁波が飛んでいるところを想像してみてください。
② 波形
もう一つ、重要な要素は「波形」です。再度、上図「電磁波の構成要素」をご覧ください。波形は、綺麗な山と谷を形成していますね。他には、どんな波形があるのでしょうか?
右 図は代表的な波形を示しています。上段の4つは、上から順番に「正弦波,矩形波,三角波,鋸(のこぎり)波」と呼ばれています。
中段の2つは、ラジオ電波の波形です。AMラジオとFMラジオでは、波形の特徴が違いますね。AMとはAmplitude Modulation(振幅変調)の略で、波長(周波数)は変わらず、山の高さ/谷の深さ(振幅)が変わっています。それに対し、FMとはFrequency Modulation(周波数変調)の略で、山の高さ/谷の深さ(振幅)は変わらず、波長(周波数)が変わっています。
下段は、現代社会を支えているデジタル技術で使われている信号の波形です。台形の「上と下」がそれぞれ「1と0」に対応しています。例えば2時間の映画データも、基本的にはこの台形の電磁波で送られているのです。
さて、以上のように、電磁波は「波長や周波数」「波形」が変わると、異なる性質を持つため、様々な用途に活用できます。通信以外にも、農業,衛生,医療,交通,漁業,おもちゃ,生活家電など、様々な分野で活用されています。譬えて言えば、敏腕忍者が、様々なものに変身し、目には見えず手に触れることもできませんが、社会の中で様々に活躍している様子が思い浮かびます。
スマホのコンパクトさからもわかるように、様々な電磁波の波長(周波数)や波形を「作ること/送信すること/受信すること」は、現代の技術レベルならば、小さな電子回路で手軽に可能です。従って、電磁波の活用は今後も益々盛んになっていくことでしょう。