何が新しいの?:
従来構法に対するメリット

当社独自の電磁波シールド技術であるEMPROOF®(エンプルーフ)から生まれたSee Through(シースルー)は、MRIやCTなど医療用及び研究用の画像診断装置の検査室専用に開発された技術です。閉塞感や圧迫感を感じやすいMRIやCTの検査室を、特殊ガラス等で透明にすることができます。

See Through技術を活用したMRI検査室(左)とCT検査室(右)
See Through技術を活用したMRI検査室(左)とCT検査室(右)

右の写真は廊下を隔てて左側にMRI検査室が、右側にCT検査室が配置されています。従来の技術あるいは構法であれば、廊下に面している壁は電磁波シールド処理が必要なため不透明となってしまい、上の写真のような透明感や開放感を得ることは難しいと思います。

See Throughのメリットは、以下に示すように5つあります。

See Throughの従来構法に対するメリット
See Throughの従来構法に対するメリット

安心

MRIやCT等、画像診断の撮影を行う際、被験者の不安は計り知れません。閉所恐怖症の被験者の場合、検査を避けたり、諦めたりする方もいらっしゃいます。See Throughの検査室(電磁波シールドルーム)は、これらの心理的苦痛を和らげます。透明な壁を備えた検査室では、閉所恐怖症の被験者だけでなく、幼年からご高齢の被験者まで、家族や信頼できる方々に見守られながらの検査が可能となります。

安全

安心・安全な検査環境を実現
安心・安全な検査環境を実現

検査中は、造影剤による禁断症状や、突然の興奮による異常行動にも迅速に対処する必要があります。これら一刻を争う緊急事態へ対処するには、検査施設のスタッフによるリアルタイムの監視が重要です。See Throughの検査室(電磁波シールドルーム)では、壁全体を透明にすることが可能となりました。検査室周辺において、複眼的な監視を行うことが可能となり、より安全な環境を整えることが出来ます。

労働環境

近年、医療に従事する人たちの労働環境が問題となっています。特に画像診断エリアでは、狭い・暗い・寒いなどのいわゆる閉鎖空間において長時間の労働を強いられています。また、MRI装置は騒音も発生するため、不眠症に悩む関係者も増えています。See Throughの検査室(電磁波シールドルーム)は、透明なだけでなく防音性能も兼ね備えており、開放的で低騒音な検査空間を実現することが可能です。また、外壁に施工することで、外光を取り入れることも可能です。

低コスト

See Throughの検査室(電磁波シールドルーム)は、MRIマグネットのリプレースにおいて、世界で初めて「再利用」を可能にしました(当社調べ)。リプレースの前に使っていた検査室(電磁波シールドルーム)を解体し、新しく施工する必要がありません。この新技術により、初回導入とリプレース(2回目)を総合して考えれば、総コストが約1,900万円もお得になります。詳しくは「See Throughの経済的効果は?」をご覧ください。

短工期

労働環境・低コスト・短工期も実現
労働環境・低コスト・短工期も実現

See Throughの検査室(電磁波シールドルーム)は、壁に特殊な構造を採用しています。そのため、MRIマグネットのリプレースの際は、リプレース前から壁に取り付けてあるSee Through電波シールドガラスを一旦取外し、リプレース後に再び取付けするだけの簡単工法が可能となりました。通常1~2ヶ月かかる工期が、最短で3日に短縮できます。廃棄する材料が極端に少ないため、地球環境や地域にも優しいメリットがあります。詳しくは「See Throughの経済的効果は?」をご覧ください。

以上見てきたように、See Throughの検査室(電磁波シールドルーム)には、大きなメリットがあります。医療分野の他にも、「電磁波が変えてきたこれまでの社会」で見た様に、様々な分野へ適用することが可能です。

また、See Throughの電波シールドガラスには、様々なオプションがあります。

例えば、壁の透明/不透明を瞬時に切り替える「スイッチ機能」は好評です。不透明時は白色になるので、例えばプロジェクターの画像・映像を投影することができ、自然風景の映像を流して安らぎ感を向上させたり、施設からの情報を発信するなど、様々な用途へ応用可能です。

さらに、検査室が外壁に面している場合、その外壁面に電磁波シールド機能を持たせつつ透明にすることも可能です。日中は外光が入るため、明るい検査環境となります。夜間は、MRIやCTなど画像診断装置本体をライトアップして、広告塔として活躍してもらうことも可能です。

街の雰囲気作りにも貢献できる!?
街の雰囲気作りにも貢献できる!?

See Throughはどのようにして
生まれたの?

「シールド現象は、重力場では観測できないが、磁場では観測できるという意味で、興味深い。」

新しいシールド現象を発見する基となった実験データ
新しいシールド現象を発見する基となった実験データ
論文:T. Saito, “Open-type magnetic shielding method,” International Journal of Applied Electromagnetics and Mechanics, vol. 33, pp.891–899, 2010より

これは、株式会社セイエンタプライズ シールド事業部の技術代表が論文の書き始めに好んで使った文章です。そんな想いを抱きながら(当時は別企業)、電磁波を研究し続けていた中で、1998年頃、ある実験を行いました。それは「空間的に均一な磁場の中に、磁性材料を置いたら、周囲の磁場はどうなるのだろう?」という、教科書にも載っていない単純な疑問からでした。

得られた実験結果は驚くべきものでした。材料周辺の磁場が弱くなっていたのです(図のグラフにおける緑色の斜線部分)。

この実験結果を基に、様々な仮説を立て、実験や数値解析を繰り返しました。その結果発見したのが、開放型磁気シールド(open-type magnetic shield)と呼ばれている「空隙が存在していても、磁場をシールド(遮蔽)する」新しい方式でした。例えば、音の世界を想像してみてください。スピーカーの音を遮蔽するために、板をかざしたとします。その板に大きな穴が開いていたら、音はその穴を通り抜けてしまいます。つまり、音を遮蔽することはできません。光も風も、その穴を通り抜けます。しかし、開放型磁気シールドは、光も風も音も通すのに、磁場だけは遮蔽できるのです。

開放型磁気シールドの初期の実験モデル
開放型磁気シールドの初期の簡易実験モデル
グレーに見えるのが磁性材料、光も風も音も通すが、磁場は遮蔽できる

この開放型磁気シールドの発見が起点となり、基礎研究から応用研究を経て生まれたのがSee Through(シースルー)の技術です。当時、医療分野で普及し始めていた画像診断装置MRIは、マグネット(磁石)の磁場が強くなる傾向にありました。磁場を強くすることで、今まで解明できなかった例えば認知症やパーキンソン症候群など脳が原因ではないかと思われる疾患の解明に役立つことが期待されていたからです。

しかしながら、磁場の強いマグネットを使用すると、それだけ周囲へ強い磁場が漏れます。その頃研究が進み、開放型磁気シールドが従来方式よりも最大で8.1倍性能が良いという結果を得ていたこともあり、「シースルー(透明)で、かつ、性能の良いシールド」の実社会への早期適用が望まれました。

開放型磁気シールドの適用先は電力ケーブル
世界初 開放型磁気シールドの適用先は電力ケーブル
論文:T. Saito and T. Shinnoh,”Application using Open-Type Magnetic Shielding Method,” J. Magn. Soc. Jpn., vol. 34, pp. 422-427, 2010より

実を言えば、開放型磁気シールドが最初に適用されたのはMRI検査室ではなく、電力ケーブルです。東南アジアのある工場でオフィスの下階にある電気室及び電力ケーブルから漏れる磁気ノイズが原因で、オフィス内のディスプレイ画面が揺れるという現象が起き、社員たちが電磁波による健康被害を恐れて仕事をボイコットしました。その対策に使われたのが、世界初の適用事例です。

その後も、電気室などの対策技術を向上させながら、MRI検査室の商品開発が進んでいきました。MRIの特殊なところは、磁場と電波の両方をシールド(遮蔽)する必要があることです。「電磁波が漏れる危険への基本的対処法」や「See Throughで電磁波が防げる理由とは?」でも触れたように、磁場と電波では、シールドするための材料や原理が異なります。譬えて言えば、テニスのラケットと卓球のラケットくらいでしょうか。

その過程で生まれたのが、See Through電波シールドガラスです。例えば、電磁波シールドルームに開放型磁気シールドを使いながら、同時に透明性の高い電波シールドを施工することで、壁自体を透明にしてはどうかと考えました。この仮説に対し、ある病院の先生へご意見を訊いてみたところ「閉所恐怖症の被験者さん達のためにも、価値が高いと思う」とのアドバイスをいただき、ある程度、信念に近いものを持ち始めた記憶があります。

それまでは閉所恐怖症という言葉も知らなかったのですが、実際にMRI検査室へ入ってみて、ドアを閉めて部屋の中に閉じ込められると、確かに空気感が変わったような圧迫感のようなものを感じます。音楽スタジオと同じグレモン錠が付いた特殊なシールドのドアは重く、MRI検査室にとって必要な仕様である「電波を100億分の1以下に減衰させる」大変さを感じると共に、「もしかしたら重大な病気が見つかるかもしれない」という不安を抱えて検査室へ入るであろう被験者の方々に対し、検査室による圧迫感や閉塞感を少しでも和らげることができたらと思いました。

EMPROOFの素材は何が特殊なの?」でも述べたように、See Through電波シールドガラスの技術的困難はひとえに、ガラスに挟み込む電波シールドメッシュの「透明度と電波シールド性能が、互いにトレードオフの関係にある」ことです。つまり、高い透明度を追求すると、電波シールド性能が下がってしまうのです。そこで、電波シールドメッシュにとっての最適な素材やバランスを丹念に模索していきました。

See Through電波シールドガラスに組み込まれている電波シールドメッシュ
See Through電波シールドガラスに組み込まれている電波シールドメッシュ

この特殊なメッシュは「髪の毛の1/3ほどの細い糸を金属でコーティングし、縦横に規則正しく織る」という技術レベルの高い、日本にしかないものです。これだけの細い糸だと切れやすく、現在衰退の一途を辿っていると言われている日本の織染加工技術の中でも世界トップの技術と言うことができます。詳細は「EMPROOFの素材は何が特殊なの?」をご覧ください。

電波シールドガラスには、電波シールドメッシュを2枚のガラスの間に挟み込むサンドイッチ構造を採用しています。建築材料としての高い耐久性や、透明度の持続性を十分に確保するため、See Through電波シールドガラスの製造工程では、防弾ガラスと同様の方法で製造しています。

なお、「電波を100億分の1以下に減衰させる」というMRI検査室にとって必要な、高度な技術仕様をクリアするためには、1枚の壁に対し1枚の電波シールドガラスを設置するのでは足りません。2枚設置することで、2重のシールド構造とする必要があります。一方で、2枚/2重のメッシュは、モアレ模様(干渉縞)を発生させやすくなります。そこで、メッシュ同士の角度とガラス同士の間隔を検討することで、最終的に全ての技術課題を乗り越えました。

このように、2枚の電波シールドガラスを空隙を空けて床と垂直に設置することで透明なガラス壁を構築し、その空隙部分、つまり2枚の電波シールドガラスの間に開放型磁気シールドをシンプルに組み込むことで、最終的に「磁場と電波の両方をシールド(遮蔽)する」See Through(透明)の壁が完成しました。

See Throughの壁の厚みは、標準で98mm(磁気シールドなし)と154mm(磁気シールドあり)です。従いまして、シールド機能を持たない一般的な壁と変わりません。

なお、上記は開放型磁気シールドや電波シールドガラスに絞って述べましたが、実際のSee Through MRI検査室は、下図に示すような様々な技術を融合することで、完成させることができました。幸いにも、沢山の技術者やデザイナー、企業、サポートスタッフの協力を得て、素晴らしい検査室が出来上がりました。

See Through MRI検査室に使われている技術群 See Through MRI検査室に使われている技術群
See Through MRI検査室に使われている技術群

See Throughで
電磁波が防げる理由とは?

ここでは、MRI検査室に話を絞り、電磁波を磁気と電波に分け、これらをSee Through(シースルー)で防げる理由をお伝えしたいと思います。「電磁波が漏れる危険への基本的対処法」でも使っている下図を基に、もう少し詳しく見ていきましょう。

電磁波の主な種類とシールド方法

下図は横にスクロールするとご覧いただけます。

周 波 数 0Hz~1kHz
(0)(103)
1kHz~3THz
(103)(1012)
3THz~1PHz
(1012)(1015)
1PHz~1EHz
(1015)(1018)
電磁波の主な種類 磁気 電波 放射線
磁石
送電線
テレビ
携帯電話
可視光 X線
g線
よく使われる
シールド材料

ケイ素鋼板
パーマロイ

ガルバリウム鋼板
ステンレス
アルミ
真鍮



コンクリート
シールド原理 磁力線の
バイパス
反射
吸収
反射
吸収
吸収

まず、磁気シールドについて見てみましょう。

周波数領域0Hz~1kHz(キロヘルツ)の電磁波は、磁気あるいは磁場の特徴がよく現れる領域であり、シールド(遮蔽)するには軟磁性材料(鉄、ケイ素鋼板、パーマロイなど)がよく使われます。軟磁性材料は、磁気がその材料の中を通り(透り)やすい、つまり透磁率が大きいことを特徴としています。軟磁性材料を磁場の中にかざすと、周囲の磁場を軟磁性材料自身の中に吸い込むイメージです。よく吸い込むほど、透磁率が高いと表現します。

磁気シールド現象を古典電磁気学的に表現すると、「磁力線の経路が軟磁性材料の中を透って迂回することで、シールド(遮蔽)される空間の磁力線の本数が減る現象」と言い表すことができます。下の模式図「軟磁性材料による磁気シールドの原理 (上から見た図)」を使って詳しく見てみましょう。

軟磁性材料による磁気シールドの原理 (上から見た図)
軟磁性材料による磁気シールドの原理 (上から見た図)

左側の図は「磁気シールドなし」、右側の図は「磁気シールドあり」です。双方とも、MRI装置を上から見ています。MRIマグネット(磁石)から出ている赤い線は磁力線を表しています。磁力線は、MRIマグネットから出て、MRIマグネットへ帰って行く楕円形を描いています。内側の磁力線は太く、外側の磁力線は細いのは「内側の磁場は強く、外側の磁場は弱い」ことを模式的に表しています。ここではできるだけシンプルに、磁気シールドの原理を理解するために必要な磁力線のみを抜き出して描いています。

左側の図は「磁気シールドなし」ですので、MRI装置の周囲の空間は空気のみとお考えください。ガラス・木・紙・布なども、磁力線から見れば空気と同じ存在であり、磁力線が描く楕円形の経路は変わりません。

右側の図は「磁気シールドあり」です。青い太線が軟磁性材料とお考えください。前述した透磁率は、鉄で約5,000倍、ケイ素鋼板で約4,000倍、パーマロイで約10万倍、空気(正確には真空)よりも高いので、赤い磁力線は青い軟磁性材料の中を通り、本来の経路を外れて迂回します。すると、水色で示されたエリアの磁力線の本数が減り、磁場が弱くなります。つまり、磁気がシールド(遮蔽)されたことになります。これが磁気シールドの原理です。

さてここで、「See Throughはどのようにして生まれたの?」で触れた「開放型磁気シールド」を思い出してください。その開放型磁気シールドをMRI検査室へ適用した一例が、下の写真です。

See Through MRI検査室に開放型磁気シールドを適用した例
See Through MRI検査室に開放型磁気シールドを適用した例
論文:T. Saito and T. Shinnoh,”Application using Open-Type Magnetic Shielding Method,” J. Magn. Soc. Jpn., vol. 34, pp. 422-427, 2010より

写真の右側の壁一面が、ガラスとなっています。このガラス越しに、グレー色で地面と水平に、7本のフラットバーが見えます。これが開放型磁気シールドです。このフラットバーは、垂直方向に約300mmピッチで配列されています。従来は、隙間や穴・孔のない板で壁全面を覆っていたため、「密閉型磁気シールド」と呼ばれるほど密閉感・閉塞感を強く感じる検査空間でしたが、開放型磁気シールドを使うことで、文字通り開放的な空間へ生まれ変わっています。

この事例では、外壁面に開放型磁気シールドを適用したため、外光(外からの太陽光)が入り、明るい検査空間であると共に、写真の左側の壁の外側にある操作室においてMRIを操作する診療放射線技師の方々にとっても、明るく開放的な労働環境となっています。また、左右双方の壁に設置されているガラスは、次に説明する電波シールドガラスで、磁気ではなく、電波をシールドしています。See Through技術では、これら「磁気シールド」と「電波シールド」の技術を組み合わせて、磁気と電波の両方をシールド(遮蔽)します。

磁気シールドについて補足すると、軟磁性材料の透磁率は、素材そのものによって異なるだけでなく、1つの材料でも周囲の磁場の強さなどによって大きく変わります。特に、磁場が空間的に均一に分布していることは稀で、MRI検査室の場合も、僅か1cmずれただけで磁場の強さは変わります。従って、周囲の磁場の強さや分布によって、材料を適切に選ぶ必要があります。

軟磁性材料の透磁率は、さらに、材料の結晶構造や結晶方位によっても大きく変わります。例えばケイ素鋼板の中には、製造工程において圧延する方向に透磁率が高くなるように制御した「方向性ケイ素鋼板」というものがあります。このタイプの材料は、結晶方位に平行な方向(圧延方向)では、空気より約94,000倍も高い透磁率を持った材料もあります。磁場自体は大きさと向きを持ったベクトルであり、例えば「磁場の向きに、軟磁性材料の結晶方位を合わせる」ことで、できるだけ少ない材料による最大効果を狙うこともできます。

このようなことから、最適な磁気シールドの設計をするには、例えばMRIの場合で言えば、メーカーや機種、マグネットを設置する位置・向きなどにより、使用する材料の素材・量・結晶方位などを変える必要があります。また、設計通りの磁気シールド性能を確保するためには、施工の際に、特に軟磁性材料を接合する部位の処理は大変重要であり、設計・施工の双方において、高度なエンジニアリング技術が必要となります。

次に、電波シールドについて見てみましょう。

周波数領域1kHz(キロヘルツ)~3THz(テラヘルツ)の電磁波は、電波の特徴がよく現れる領域であり、シールド(遮蔽)するには銅、ガルバリウム鋼板、ステンレス、アルミニウム、真鍮などの導電性材料がよく使われます。導電性とは電気が通りやすい、つまり、電流が流れやすい性質を表し、導電性材料とは電流が流れやすい材料を表します。この電流の流れやすさを「導電率」と呼びます。上記の金属板はどれも導電率が十分に高いため、MRI検査室の各部位に必要な金属特性(加工性や強度など)などにより、様々に使い分けがされています。

例えば、壁面にはガルバリウム鋼板を使い、板の接合部にはアルミニウム製の接合部材を使い、電気的接合度合を強化すべき部分には銅製のウール材を使い、ドアの扉部にはステンレス製の板を使い、その他の複雑な形状をした特殊部位には真鍮製の特殊部材を使うといった具合です。但し、それぞれの金属にも、さらに細かい種類があります。例えば、MRI検査室のドアが内開き(検査室内のMRI側へ向かって開く)の場合、部屋の狭さやドアの位置によっては、ドアがMRIマグネットの磁力に引っ張られてしまい、開閉動作が重くなってしまうなどの症状が出る可能性があります。その場合は、非磁性タイプのステンレスでドアを製作する必要があります。

電波シールドの原理については、既に沢山の記事や文献で説明されているため、ここでは分かり易さを優先して観念的あるいは直感的な視点から見てみましょう。まず、下図の左側をご覧ください。

導電性材料による電波シールドの原理
導電性材料による電波シールドの原理

電波シールドの原理は、電波の「反射と吸収」です。電波は電磁波の一種ですので、エネルギー体とも言えます。例えば火の玉が電波シールド壁に当たると、火の玉の熱エネルギーの一部は電波シールド材料に吸収され、残りのエネルギーが小さな火の玉となって跳ね返る(反射する)ようなイメージです。実際にはごく少量の火の玉(電波)は、電波シールド壁を突破して壁の反対側へ透過します。

MRI検査室の電波シールドは、磁気シールドとは異なり、上図の右側に模式的に描いたように、導電性材料で部屋全体を完全に囲います。理由は、MRI検査室に求められる電波シールド性能が、非常に高いからです。具体的には、例えば検査室の外から内へ侵入しようとする電波ノイズを、100億分の1以下に減衰させる高性能な電波シールドが必要とされるため、部屋を導電性材料で完全に囲う必要があります。

そして、この完全に囲うタイプの電波シールドは、MRIが検査で稼働している時に発信されている電波を「検査室の外へ漏らさない」という機能も併せ持っています。このように、部屋の全ての面を完全に囲うように電波シールドすることで、部屋の内⇔外の双方向の電波シールドが可能となります。

ではここで、電波シールドに使われる特殊な建材である「See Through電波シールドガラス」について見てみましょう。

See Throughはどのようにして生まれたの?」でも述べたように、See Through 電波シールドガラスは、通常のガラス2枚で特殊な電波シールドメッシュをサンドイッチ加工したものです。ガラスは、MRIで使用する周波数領域の電波は透過するため、電波シールド機能はメッシュ材料だけが担っています。上述した火の玉で表現すれば、火の玉がメッシュ部分で反射および吸収されることにより、電波をシールド(遮蔽)するわけです。

See Through 電波シールドガラスに使用されているメッシュの拡大写真
See Through 電波シールドガラスに使用されているメッシュの拡大写真

メッシュ材料なので、縦糸と横糸があり、糸の素材・構造が特殊であるだけでなく、糸の太さや織りのピッチも重要な要素となります。高い透明度を確保しながら、同時に高い電波シールド性能も確保することは難易度が高く、例えば高い透明度を追求して糸を織るピッチを粗くすると、空隙部分の面積が大きくなり、電波シールド性能が下がります。上述した火の玉で表現すれば、メッシュ部分で火の玉が反射も吸収もされずに、通過しやすくなってしまいます。

これらの構成要素に関する条件は、シールド対象とする電波の周波数によっても変わります。従って、MRIで使用する周波数領域に合わせ、最適化した条件のメッシュを使い、シールドガラスが製造されています。なお「メッシュ表面の色が黒色ではなく白色の方が、シースルー性(透明性)が上がるのでは?」と思われる方もいらっしゃいますが、白色の場合は光が反射してしまい、かえってシースルー性が下がります。

なお、電波シールド材料の研究開発において、電波の吸収率を上げたい場合は、材料の誘電率と透磁率を複素数で扱った際のクロスタームに着目します。ここで扱うクロスタームとは、「誘電率の実部と透磁率の虚部の積(掛け算)」と「誘電率の虚部と透磁率の実部の積(掛け算)」を加算した数量で、非常に高度な技術分野となります。

See Throughの働く人・
被験者への大きなメリットは?

See Throughは何が新しいの?:従来構法に対するメリット」でも見たように、See Through(シースルー)とは、当社独自の電磁波シールド技術であるEMPROOF®(エンプルーフ)から生まれた、MRIやCTなど医療用及び研究用の画像診断装置の検査室専用に開発された技術です。

閉塞感や圧迫感を感じやすいMRIやCTの検査室を、特殊ガラス等で透明にすることができる株式会社セイエンタプライズ独自の技術です。今後は様々な分野での応用が期待されていますが、ここでは医療分野に絞り、「医療施設で働く人・被験者」へのメリットを見てみましょう。

See Through技術を適用したMRI検査室(CT検査室から撮影)
See Through技術を適用したMRI検査室(CT検査室から撮影)

See Throughは何が新しいの?:従来構法に対するメリット」でも見たように、See Throughの検査室には、以下に示す5つのメリットがあります。

では、これらのメリットを「働く人」と「被験者」に分けて、それぞれの視点で見てみましょう。

See Throughの従来構法に対するメリット
See Throughの従来構法に対するメリット

「働く人」への大きなメリット

● 安全
医療施設における不慮の事故は、ときに致命的であり、人の命やその施設の存続にもかかわります。医療分野では「安全」に対する意識が非常に高く、See Throughは「目が行き届く安全」という意味で大きなメリットがあります。例えば、検査中の造影剤による被験者の禁断症状や、突然の興奮による異常行動にも迅速に対処する必要があります。これら一刻を争う緊急事態へ対処するには、働く人々の「誰かしらの眼」が行き届いている、逆に言えば「眼が離れることがない」体制が理想的です。
● 労働環境
MRIやCTの検査室が配置されている画像診断エリアは、狭い・暗い・寒いなどのいわゆる閉鎖空間となりがちであり、働く人々にとっては厳しい労働環境となってしまう傾向があります。MRI装置は騒音も発生します。See Throughは、開放的な空間を実現すると共に、高い防音性能(40dB以上)も兼ね備えているため、働く人々の労働環境の改善に大きなメリットがあります。労働環境の改善は、医療サービスの向上にも繋がるため、後述する被験者にとってのメリットと併せた相乗効果が期待でき、結果として「明るい職場の実現」「評判の向上」「優秀なスタッフの採用」などが期待されます。
● 短工期
例えばMRIが1台しかない医療施設の場合、そのMRIを新機種へリプレースする際には厄介な問題が発生します。通常、リプレースに関わる検査室の工事期間は1~2ヶ月かかり、その間、MRIによる検査ができないため、医療現場で働く人々にとっては、スムーズな医療サービスの提供に支障をきたしてしまうからです。See Throughの場合は、壁のSee Through電波シールドガラスを取外し、再び取付けるだけの簡単工法により、最短工期3日を可能にしました。現場の支障を最小限に抑えることは、働く人々にとって、大きなメリットとなるのではないでしょうか。なお、この短工期を実現するためには、レイアウト・諸配管・諸配線などがリプレース前後で大きく変わらないことが重要です。従って、MRIの初期導入時にしっかりした計画・設計が必要となります。

「被験者」への大きなメリット

● 安心
MRIやCT等、画像診断の撮影を行う際、被験者の不安は計り知れません。閉所恐怖症の被験者の場合、検査を避けたり、諦めたりする方もいらっしゃいます。See Throughはこれらの心理的苦痛を和らげます。透明な壁を備えた検査室では、閉所恐怖症の被験者だけでなく、幼年からご高齢の被験者まで、家族や信頼できる方々に見守られながらの検査が可能となり、結果として安心という大きなメリットを享受できることになるでしょう。
● 満足と信頼
上述した被験者側の「安心」と、働く人々側の大きなメリット「安全・労働環境・短工期」との相乗効果。この相乗効果により、お客様である被験者の心の中に生まれるのは、満足だと思います。そして、この満足が積み重なることによる信頼は、働く人々にとっては何ものにも代え難いものではないでしょうか。See Throughの電磁波シールド技術を通して、世界中の人々や社会が、より健康的でより進化した生活を送れるよう、私たちはこれからも探求を続けます。

See Throughの経済的効果は?

See Through(シースルー)の検査室は、どの程度の経済効果があるのでしょうか?

See Throughの場合は、電磁波シールドルームの中で「シースルー(透明)にしたい面積」により費用が変わります。ここでは、最も典型的な「壁一面が全てシースルー」のMRI検査室に絞って考えてみたいと思います。

シースルーは1,900万円もお得
シースルーは1,900万円もお得

上の表において、左側が他社方式、右側がSee Through(シースルー)方式です。①シールド設計・工事、②内装工事、③解体工事、④ガラス取外・取付工事、⑤工事期間の損失、という「方式の違いにより差額が発生する項目のみ」を加算してみると、「初回導入(1台目)+リプレース(2台目)」の合計金額は、他社方式で5,800万円、See Through方式では3,900万円となり、See Through方式は「1,900万円もお得」という試算結果になります。

なぜ、これだけ安くなるのでしょうか?

See Through方式の場合は、壁に特殊な構造を採用しています。そのため、MRIマグネットのリプレースの際は、リプレース前から壁に取り付けてあるSee Through電波シールドガラスを一旦取外し、リプレース後に再び取付けするだけの簡単工法により、工期が大幅に短縮されるためです。この短工期を実現するためには、特別な破損個所が無いことに加え、レイアウト・諸配管・諸配線などがリプレース前後で大きく変わらないことが重要です。従って、MRIの初期導入時にしっかりした計画・設計が必要となります。

施設全体としての経済効果としては、「検査装置のリプレースがあっても、医療サービスの低下が極端に少ない、信頼できる医療施設の実現」という目に見えづらいけれども重要な効果も期待できます。更に、社会全体の経済効果としては、リプレース時の簡単工法により「廃棄する材料が極端に少なく、環境や地域にも優しい」ことが挙げられます。

仮に「初回導入の費用のみ」で考えてみましょう。MRI装置の使用期間を10年間とした場合、初期導入費の差額1,000万円を120ヶ月で割ると「毎月 約8.3万円」の差額と計算されます。この「毎月 約8.3万円」は、宣伝費として考えてみても、十分な経済効果があると言えるのではないでしょうか。

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概略平面図の例
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