携帯電話:通信技術の発展の歴史
「電磁波について」では、電磁波について学びました。「通信技術」は、紀元前から使われていた狼煙(のろし)や太鼓から発展し、現代社会では電磁波を活用した「無線通信」が広く活用されています。
現在、通信に活用されている電磁波は、日本では総務省が管轄しており、電波法という法律の下に運用されています。
上図を見ると、実に様々な波長(周波数)の電磁波が、様々な通信目的に活用されていることがわかります。波長で言えば、100km(図の左上)~0.1mm(図の右上)と、様々な種類の電磁波が、私たちの周囲の空間を飛んでいます。
無線通信の技術について歴史的な流れを俯瞰してみると、概ね上図の左側から右側へ発展していると考えられます。つまり、波長が長い(100km) → 短い(0.1mm)、言葉を替えれば、周波数が低い(3kHz) → 高い(3THz)という流れです。
この流れは、無線機の中に組み込まれている電子回路の動作速度に関連しています。分野は異なりますが、例えば、20年ほど前のパソコンは動作が遅く、現在のパソコンは複雑な動作でも素早いですよね。電子回路の技術レベルが高くなっているからです。同じことが、通信技術の分野でも言えます。
この傾向を見るために、上図に注目してみましょう。低い周波数の領域では、例えば「船舶通信」という用途があります。船舶の安全航行確保のために、船舶に無線電信機を取り付け、通信試験を行うようになったのは1897年と言われています。
同じく上図「周波数帯ごとの主な用途と電波の特徴」に記載されている中ほどの周波数領域では、例えば「FM放送」があります。「なぜ、電磁波は色々と便利なの?」で波形を学んだ、ラジオ用途の電磁波ですね。世界初のFMラジオ局が放送を開始したのが1937年と言われています。
同じく上図「周波数帯ごとの主な用途と電波の特徴」の高い周波数領域では、例えば「無線LAN」があります。無線LANが製品化され始めたのが1998年頃と言われています。
例えば、いつでもどこでもスマホがインターネットに繋がるWi-Fi(ワイファイ)。このWi-Fi(規格名 IEEE 802.11a/b/g/n/ac)は、無線LANの一種と位置付けられ、2.4GHz付近と5GHz付近の電磁波が使われています。
以上のように、無線通信の歴史は「活用できる電磁波の周波数が、徐々に高くなっていった歴史」という一面も持っているとも言えます。
ここまで無線通信に絞って、歴史的な変遷を見て来ました。現在、日本で使用されている無線通信用途の電磁波の種類は沢山あり、総務省により、用途ごとに周波数が割り当てられています。書籍として発行されている『周波数手帳』には、400以上ある各ページにびっしりと各周波数と各用途が記載されているほどで、いかにたくさんの種類の電磁波が無線通信のために活用されているかがわかります。
5Gとは何?:
5Gが生み出す新しい社会
最近にわかに話題となっている「5G」。この新しい無線通信システム5Gは、世界を革新的に進化させると言われていますが、一体、どんな世界が待っているのでしょうか?
5Gとは「第5世代の移動通信システム」のことです。英語では5th Generationと表記するため「5G」と略記されます。1G、2G、3G、4Gに続く、新しい無線通信システムです。
- 1G (主に1980年代):移動通信システムが初めて実用化されました(アナログ方式)。
- 2G (主に1990年代):デジタル方式が実現され、メールが実用化されました。
- 3G (主に2000年代):世界共通規格が登場すると共に(2007年時点で世界100か国以上の8億人以上が利用)、静止画→ブラウザ→動画の利用が実用化されました。
- 4G (主に2010年代):超高速大容量通信を実現。高精細動画が利用可能となりました。
- 5G(主に2020年代):通信分野だけでなく、例えばリアルタイム通訳(多言語対応)や完全自動運転など、「人々の生活全般」の進化が期待されています。
5Gは移動通信システムですので無線技術であり「電磁波」を活用しています。電磁波の観点からは、どんな特徴があるのでしょうか?
① 周波数が高い
5Gでは、通信スピードが速くなります。沢山の情報量を短時間で伝達するためには、例えば人であれば早口でしゃべる必要があります。電磁波の場合は、周波数が高くなります。「電磁波とは?」の「電磁波のイメージ動画」の電場や磁場の動きが速いイメージです。
日本では5Gの電磁波として、3.7GHz帯,4.5GHz帯,28GHz帯が使われています。「帯」というのは「ピンポイントの単一周波数ではなく、その周波数付近の電磁波を、幅を持たせて活用している」とご理解ください。例えば3.7GHz帯の場合は「3.7GHz付近の電磁波を活用している」と解釈できます。前世代の4Gでは、0.7GHz帯~3.5GHz帯が使われていたので、5Gで新しく活用する周波数(3.7GHz帯~28GHz帯)は、4Gよりも高くなっていることが理解できると思います。
この周波数が高くなるもう一つの理由が「帯域幅」というものです。少し強引な譬えとなりますが、人間の会話では「声のトーン/口調」のようなものです。たとえ早口であっても、一本調子ではなかなか伝わりづらいニュアンスなどもあります。嬉しそうな声のトーンやヒソヒソした口調などは、言葉では表現しづらい情報が沢山詰まっています。帯域幅が広いことは大容量通信にとって重要な要素であるため、今まで活用されてこなかった高周波数の幅広い領域の電磁波を活用するわけです。
理解を深めるため、もう少し強引に思考実験をしてみましょう。仮に、4Gの周波数帯で5Gの高レベル通信を実験してみるとします。すると4Gの通信と混信してしまい、通信がうまくできない状況となってしまいます。スマホの通話であれば、相手の声が途切れる、雑音が入るなどの現象となります。「携帯電話:通信技術の発展の歴史」でも理解できるように、現代社会では沢山の周波数の電磁波を使っており、この混雑領域を避けるため、今まで活用されてこなかった「高い周波数領域」を活用することで、エラーの無い安定した高品質な通信状況を確保できるのです。まるで、一般道と高速道路(しかも多車線)の違いのようですね。
② 電磁波の強度が強くなる
「5G通信を活用して、格段に便利な生活をしてみたい」と誰もが夢を膨らませている今の時代。5Gの電磁波が遠くまで飛んでくれて、基地局も少なくなって、利用料も安くなってほしいですよね。ところが、残念ながら、なかなかそうはいかないのです。
電磁波の一般的な性質として「周波数が高くなるほど遠くへ飛びにくく」なります。例えば、音で考えると、高い音は遠くまで届きづらいのです。遠くにいる相手に声を届かせるために、大きな声を出しますよね。それと同じことが電磁波にも当てはまります。電磁波の強度は「電磁波とは?」の「電磁波のイメージ動画」の波の高さに関係しています。波の高さを高くするためには、それだけ信号に使う電気エネルギーを強くする必要があります。
何らかの工夫をして、このエネルギーを少なくしたいところです。現在研究されている代表的な技術に「ビームフォーミング」があります。譬えて言えば、先程の遠いところにいる相手へ声を届かせるために、両手を口に当てて、声の方向を絞ることに該当します。できるだけ、声(音)のエネルギーを分散させないようにします。不特定多数の相手へ同時に声を届けるのは難しいですが、相手が一人なら、意外と効果があると思います。
5Gの実用面を考えると、上記のような工夫が有効なのかどうか、現在技術者の人達が研究に研究を重ね、改善し続けてくれています。
③ 多方面から飛んでくる
「周波数が高くなるほど遠くへ飛びにくく」なるという、電磁波の性質を考えると、例えば建物が多い地域では、基地局が多く設置されるかもしれないと推測されます。多方面から電磁波が飛んで来るため、5Gの通信が途切れることなく便利に使えるというメリット等がある一方、アッチからもコッチからも電磁波が飛んで来る環境の中で、私たちは暮らすことになります。
「携帯電話:通信技術の発展の歴史」でも見たように、既に私たちの周りには、多方面から様々な電磁波が飛んで来ています。そこに新参者として、5Gの電磁波も加わるイメージです。
以上のように、来る5G社会を実現するために活用される「新しい電磁波」の特徴を考えてみました。今日も世界中で、電磁波の技術者たちは研究開発を積み重ねてくれています。
携帯電話の電磁波が体を壊す?
電磁波の人体に対する影響については、もう随分と長い間、不安や疑問が完全には払拭されていない状況が続いています。私たちは一体、この問題をどう考えたら良いのでしょうか?
例えば、総務省 東海総合通信局(URL:https://www.soumu.go.jp/soutsu/tokai/)が非常に丁寧かつわかりやすく説明してくれています。
また総務省は、国民の電磁波(電波)に対する不安を解消し、安心して電波を利用できる社会を構築するため、電波の医学・生物学的影響に関する様々な研究を1997年度から実施しています。(ご参考:https://www.tele.soumu.go.jp/)
研究の成果は、WHO(世界保健機関)が主導している国際電磁界プロジェクトに入力されるなど、電波の健康影響に関する国際的なリスク評価に貢献しています。
これらのウェブサイトの内容を見てみると、総務省は、過去50年間に亘る国内外の研究結果に基づいて、厳しい基準値により電波の強さを規制・管理していると共に、生体への影響に関しては、今もなお慎重に研究を続けていることが理解できます。
世界各国でこのような研究が継続されており、国内外の研究手法を総合すれば、かなり多角的なアプローチが採られています。しかしながら現時点では、「電磁波の人体に対する影響」が科学的に完全に証明されたことは言いづらい状況です。不安や疑問が完全に払拭されておらず、例えばインターネットには様々な情報が掲載されているのも事実です。なぜでしょうか?
これはひとえに「科学的に解明することが難しい課題」であることが挙げられます。何しろ対象が人体ですから、研究心に任せて自由に実験することなどできません。世界中の人々が完全に納得できる科学的アプローチを採ることが難しいのです。
しかし、対象を人から機械へ替えると、科学的かつ確実なことが言えます。例えば、強い電磁波を機械へ照射すると、機械が誤動作することがあります。このような現象を電磁障害と呼びます。
電磁障害の例
下図は横にスクロールするとご覧いただけます。
No. | 電磁障害の内容 | 原因となる 電磁波の種類 |
||
---|---|---|---|---|
場所 | 機械/機器 | 誤作動の内容 | ||
1 | 半導体工場 | 電子線描画装置 | 回路描画の誤り | 直流/交流 磁場 |
2 | 研究所 | 電子顕微鏡 | 画像の歪み | 直流磁場 |
3 | 画像の揺れ | 交流磁場 | ||
4 | 医療施設 | MRI | 画像のノイズ | 電 波 |
5 | 画像の歪み | 直流/交流 磁場 | ||
6 | 各種 医療装置 | 様々 | 様々 | |
7 | 様々 | 各種 測定・分析装置 |
このような誤動作(電磁障害)を起こす機械は、世の中に多数存在します。
科学的アプローチを採れるならば、例えば電磁波の諸条件(強さ,向き,周波数,波形など)を精密に変化させ、機械の動作を観察・分析し、もし誤動作が生じたら、その原因を科学的に解明していきます。例えば「電子顕微鏡の電子ビームが、ある向きと強さの磁場(向きと強さ等も指定)の影響を受けて、ある向きへ〇〇µm、軌道が逸れたことにより、△△という誤動作が発⽣した。この症状の原因はフレミングの左手の法則で説明できる。」という具合です。
経験則的には、スマホや携帯電話についてどんなことが言えるでしょうか。例えば、数十年前の携帯電話は電波が強かったため、海外において携帯電話で電話をかけると同じ室内のテレビが音を立てて反応したこともあります。但し、今ではそのような現象は見られません。長年の研究努力により、電磁波の強度が弱くても安定した通信ができるよう、技術が進歩しているのです。勿論、精密機器に関しては、弱い電磁波でも影響を受けるものがあります。そのような機器は、電磁波の他にも微振動や気温の僅かな変化に対しても誤動作の可能性があり、慎重かつ精密に設置環境を作る必要があります。
いずれにしても、人体への影響に関しては、人によっては不安を拭えません。「人体への影響が、科学的に完全には解明されていない」現在においては、どう考えたら良いのでしょうか?
電磁波過敏症の人たちが確かに存在していることは、WHO(世界保健機関)もファクトシートで認めています。例えば、自分で調べたり判断することが難しい「乳幼児、子供たち」に関しては、「念のため」何らかの対策を打っておくという考え方もあって良いのかもしれません。
健康被害リスクへの
備えとして何をすべき?
仮に、ある種の電磁波が人体に悪影響を及ぼすと仮定したとしても、科学的メカニズムが解明されていない現時点では、現象や対策効果を定量的に扱うことが困難であり、どうしても曖昧な議論になりがちです。
例えば「備え」として、日ごろから体調管理に努めることは、電磁波以外の様々なことに対しても、大切と思われます。何となく忙しく時間を過ごしてしまう習慣の中で、しっかりと食事や睡眠を採り、適度な運動をすることが難しい現代社会では、特に体調管理は大切な基本要素であることは、理屈としてはよく理解できます。
もう少し能動的に考えた場合、「携帯電話の電磁波が体を壊す?」で述べた「念のための備え」という観点からは、どんなことができるのでしょうか?
例えば、スマホを体から離して使う、あるいは置いておくという方法は、手っ取り早いですし、お金もかかりません。しかし、そのような使い方は実用上、なかなかできないと思います。私たちは、睡眠時に枕元へついつい置いてしまう始末です。
こんな時のお薦めは「アルミホイル」です。どんな厚みのものでも構いません。大きめに切って、スマホをくるみます。これには「電磁波が漏れる危険への基本的対処法」で述べている、電磁波をシールド(遮蔽)する技術を部分的かつ簡易的に使っています。
アルミニウムという素材は、電磁波の中でも低い周波数では効果を発揮しづらいのですが、5Gのような高い周波数の場合には有効です。
右 図のようにアルミホイルでスマホをくるむと、上下の「アルミ同士が十分に重なり合い接合している部分」では電磁波が遮蔽されます。しかし「左右の小さな隙間」から電磁波は入り込むのでスマホは圏外になりません(完全にくるめば、圏外にすることも可能)。このアルミホイルでくるんだスマホの向きを調節することによって、「人体方向へは電磁波が飛んで来ないが、必要な信号はスマホがキャッチできる状態」を作り上げることが可能となります。
なお、「電磁波が漏れる危険への基本的対処法」にて詳述していますが、電磁波シールド技術を活用して部屋を作ることも可能です。例えば、医療用画像診断装置のMRI検査室でも使われているような高度なシールドルーム(電磁波を遮蔽する部屋)は、数千万円のオーダーですが、電磁波を100億分の1以下に減衰させることが可能です。
このタイプの高度なシールドルームは、例えばドアや窓なども特殊な素材/構造をしており、譬えてみれば「水も漏らさぬ」勢いで、随所に電磁波シールド技術が使われています。この部屋の中では、当然スマホは圏外になります。音で言えば無音に極めて近い状態が保たれており、電磁波的に非常に静かな空間です。
上の写真は、実験用に組み立てた「剥き出しの状態」の電磁波シールドルームの外観です。実際には、この構造が建物の中に組み込まれ、シールドルームの内部には、自由に内装を施すことができるため、目的に応じた実用的なスペースを構築することができます。
総務省では「高周波領域における電波防護指針の在り方」に関し、専用のウェブサイト(https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban16_02000185.html)で、広く意見を募集しました。そこには、「2020年にサービス実現が期待されている第5世代移動通信システム(5G)をはじめ、6GHzを超える周波数帯を利用する無線機器が人体に近接して使用されることが想定されています。」と書かれています。
健康被害のリスクに対する「念のため」の備えを目的にした場合、「機能」と「価格」のバランスが取れた実用的な対策方法は、これからも鋭意模索されていくと思われます。弊社でも、「5G電磁波シールド」商品として、スマホカバー向けのEMPROOF SEALや、乳幼児~大人向けのKAYAを開発・販売しております。是非、ご参考になさってみてください。